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こんにちは。院長・獣医師の石川です。
夏の猛暑のことを忘れさせしまうくらいの長雨ですが、皆さんお元気にお過ごしでしょうか?
湿気が多くて室内ではカビが生えやすく、外に映えれば病院の芝生にキノコが生えていたりと、天候気候の変化を感じる今日この頃です。
最近当院へ、「犬のてんかん」のセカンドオピニオンやサードオピニオンが非常に増えています。
想像するに、犬のてんかんの発生数が増えているわけではなく、色々な情報をインターネットやウェブサイトだけではなく、AIなどでかなり精度の高い情報を得ることができ、現状の治療に疑問や不安を抱いて当院を受診する流れではないかと思います。
たしかに近年のAIから得られる情報は、客観的なデータ量という点では、私なんかじゃ足元にも及ばない圧倒的な情報量です。AIに対する質問の仕方を間違えなければ、かなり質の高い情報も提供してくれます。
ただし、情報というものは多ければいいというものでもありませんし、個々のケースにより即した対応をAIは提案してくれるとは言えません。
というわけで、ちょっと参考になる読み物として、犬のてんかんについて、犬の発作の原因、動物病院で行う検査、毎日の投薬を始める目安、そしてご家庭でできる対応を解説します。
国際獣医てんかん特別委員会(IVETF)や米国獣医内科学会(ACVIM)の合意声明を参考にしながら、私の診療経験も交えてお伝えしたいと思います。
※生成AIでイラストを作成してみました。AIの進歩は凄いですね!
【発作が起きたときの対応と、緊急受診の目安】
まずは、発作が始まった時刻を確認してください。慌てて体を押さえ込まず、周囲の物をどけて、ぶつかったり転落したりしないように安全を確保します。階段や水辺などの危険がなければ、無理に抱き上げる必要はありません。
発作中は口の中に手や物を入れないでください。舌を引っ張る必要もありません。意識や飲み込む力が十分に戻るまでは、水や食べ物、飲み薬を口から与えることも避けてください。
「舌の色が悪くなり、一時的に呼吸が止まったから人工呼吸をした!」というお話を飼い主の方から聞くことがありますが、人にも犬にも危険な行為となるため避けましょう。
安全を確保できたら、可能な範囲でスマートフォンなどで動画を撮影します。動画は、発作の種類を判断し、治療方針を考えるための大切な情報になります。
次のような場合は、緊急の対応が必要です。
・発作が5分以上続いている、または止まらず5分に達しそうな場合
・意識が十分に戻らないまま、次の発作が起きる場合
このような状態は「てんかん重積状態」として対応が必要になることがあります。直ちに動物病院へ連絡してください。5分まで待つという意味ではなく、発作が止まらない場合には早めに連絡し、受診の準備を進めます。
また、同じ日に発作を繰り返す場合も、群発発作の可能性があるため速やかに相談してください。発作が短くても、繰り返すことで状態が悪化することがあります。
初めて発作を確認した場合は、短時間で止まり元気に戻ったように見えても、動物病院に相談しましょう。中毒が疑われる場合や、呼吸の異常、著しい体調不良を伴う場合も、発作時間にかかわらず直ちに連絡してください。
【てんかん発作とは?】
てんかん発作は、脳の神経細胞に一時的な異常活動が起こることで生じます。
全身が硬くなる、手足をばたつかせる、意識を失う、よだれが出る、排尿・排便を伴うなどの症状が見られることがあります。一方、顔や手足の一部だけが繰り返し動くなど、全身のけいれんを伴わない発作もあります。
発作後には、ぼんやりする、歩き回る、ふらつく、一時的に見えにくくなるなどの変化が現れることがあります。こうした発作後の状態も、診断や治療の判断に役立ちます。
ただし、失神や一部の運動の異常など、てんかん発作に似て見える症状もあります。また、1回発作が起きただけで、直ちに「てんかん」と診断されるわけではありません。発作の様子と経過、診察や検査の結果を合わせて判断することが大切です。
【犬の発作の原因―3つの区分】
原因を考えるうえで、まず理解していただきたい区分は次の3つです。反応性発作は、繰り返し発作を起こす脳の病気としての「てんかん」とは区別されます。
1.反応性発作
低血糖、肝性脳症、電解質異常、低カルシウム血症、中毒など、脳以外の問題の影響で起こる発作です。
発作が疑われる犬を診察するときは、まずこうした原因がないかを調べます。食べた物や薬の情報、血液検査などから原因を探り、必要に応じて追加の検査を行います。
原因が改善すれば、発作も起こらなくなることが期待できます。ただし、原因となった病気や長時間の発作によって脳に障害が残った場合には、その後も発作が続くことがあります。
2.構造的てんかん
脳炎、脳腫瘍、脳の形成異常、外傷、血管の病気など、脳の構造に関わる病気や損傷によって起こるてんかんです。
発作以外に歩き方や行動の変化が見られることもありますが、初期には発作以外の異常が目立たない場合もあります。そのため、普段は元気に見えるからといって、脳の病気を完全に否定することはできません。
原因を調べるために、MRI検査や、必要に応じて脳脊髄液検査などを検討します。治療では、発作を抑えるとともに、原因となる病気への対応が重要です。
3.特発性てんかん
遺伝的な背景が確認・推定される場合や、検査をしても明らかな原因が特定されない場合を含むてんかんです。「特発性」は「突発性」とは異なる言葉です。
犬では、初めての発作が生後6か月~6歳の間に起こり、発作と発作の間の診察では異常が認められないことが多い病気です。ただし、年齢だけで診断することはできません。
生後6か月未満や6歳を超えて初めて発作が確認された犬では、特発性てんかん以外の原因をより慎重に調べる必要があります。
特発性てんかんでも、発作の頻度や重症度、薬への反応には個体差があります。良好にコントロールできれば普段に近い生活を送れる犬も多くいますが、発作が長く続く場合や繰り返す場合には、命に関わることもあるため適切な管理が必要です。
【受診前に記録しておきたいこと】
発作の動画に加えて、次の情報を記録しておくと診察に役立ちます。
・発作が起きた日時と持続時間
・発作中の体の動きや、呼びかけへの反応
・その日に発作を起こした回数
・発作前後の様子と、普段の状態へ戻るまでの時間
・使用している薬やサプリメント、飲み忘れの有無
・普段と違う物を食べた可能性や、最近の体調の変化
発作を見たときは時間が長く感じられることもあります。可能なら時計やスマートフォンで実際の時間を測ってください。投薬開始後も記録を続けることで、治療の効果を評価しやすくなります。
【動物病院を受診してからの流れ】
まずは動画やお話から発作の様子を確認し、身体検査と神経学的検査を行います。そのうえで、血液検査や尿検査などにより、反応性発作の原因となる異常がないかを調べます。
必要に応じて、肝臓の機能を調べる検査、超音波検査、レントゲン検査などを追加します。通常の血液検査が正常でも、中毒などを含めたすべての原因を除外できるわけではないため、食べた物や発作の経過も大切な情報です。
脳の病気が疑われる場合は、通常は全身麻酔下でMRI検査を行い、必要に応じて脳脊髄液検査を検討します。脳脊髄液検査は、MRIの所見や安全性を評価したうえで実施を判断します。
特に、次のような場合には脳の詳しい検査を積極的に検討します。
・初めての発作が、生後6か月未満または6歳を超えて起きた場合
・発作と発作の間にも、神経学的な異常が見られる場合
・初めての発作から群発発作やてんかん重積状態を示した場合
・適切な投薬を行っても、十分な効果が得られない場合
一方、年齢や発作の経過、診察所見、基本的な検査結果が特発性てんかんに合う場合には、MRIを行わず、その可能性を考えて経過観察や治療を始めることもあります。
MRIを行うかどうかは、診断で得られる情報、麻酔の負担、費用などを考慮し、飼い主さんと相談して決めます。検査をしない場合には、診断に残る不確実性も共有することが大切です。
【犬の特発性てんかんで、毎日の投薬を始める目安】
特発性てんかんが疑われても、すべての犬ですぐに継続的な投薬を始めるわけではありません。
IVETFの合意声明では、次のいずれかに当てはまる場合に、長期的な投薬の開始を検討するとされています。
・6か月以内に2回以上のてんかん発作が起きる
・てんかん重積状態や群発発作が起きる
・発作後の症状が特に重い、または24時間を超えて続く
・発作を繰り返すにつれて、頻度、持続時間、重症度が悪化している
これは治療開始を考える目安であり、発作がこの回数に達するまで受診や治療を待つという意味ではありません。脳の病気がある場合や、発作が長く続く場合などには、初回から治療が必要になることもあります。
【抗てんかん薬で目指すこと】
理想は、発作が起こらなくなることです。ただし、すべての犬で完全に発作をなくせるわけではありません。
治療では、次の点を総合的に評価します。
・発作の回数を減らす
・発作の持続時間を短くする
・発作の重症度を軽減する
・群発発作やてんかん重積状態を防ぐ、または減らす
・薬の副作用をできるだけ抑え、犬とご家族の生活の質を保つ
薬で発作が起こらなくなる犬もいれば、投与量の調整や複数の薬の併用が必要な犬もいます。発作回数だけでなく、発作後の回復にかかる時間や、眠気・ふらつきなどの副作用も含めて、治療の効果を判断します。
【犬に使用する主な抗てんかん薬】
犬では、ゾニサミド、フェノバルビタール、レベチラセタム、臭化カリウム、イメピトインなどが使用されます。この順番が薬の優先順位を示すものではありません。
薬によって、発作への効果、副作用、投薬の回数、他の薬との相互作用、費用などに違いがあります。発作の種類や重症度、肝臓・腎臓などの状態、毎日の投薬のしやすさを考えて選びます。
例えばフェノバルビタールは、長年の使用実績があり、発作を抑える効果が確認されている薬です。一方、眠気、ふらつき、多飲多尿、多食などが見られることがあり、肝臓への影響にも注意して経過を見ます。眠気やふらつきは、治療開始後しばらくすると軽くなる場合もあります。
どの薬にも注意点があります。定期的な診察と血液検査を行い、薬によっては血中濃度を測定しながら、安全性と効果の両方を確認します。
【薬を飲んでいるのに発作が続く場合】
特に最近は私が診療する中でも、ゾニサミド単独、あるいはゾニサミドとレベチラセタムの併用で治療されている犬をよく見かけます。これらの薬は一般的で効果的な選択肢になりますが、その組み合わせだけでは十分に発作を抑えられない犬もいます。
大切なのは、発作が続いているときに、効果を確認せず同じ治療を続けないことです。次の点を順に見直します。
・決められた量・回数で投薬できているか
・必要に応じた血中濃度の確認
・投与量や投薬間隔の調整
・他の抗てんかん薬の追加や変更
・原因の再評価や、詳しい検査の必要性
状態に応じて、フェノバルビタールや臭化カリウムなどを検討することもあります。副作用をできるだけ抑えることと、発作を十分にコントロールすることの両方が重要です。
適切に薬を選び、十分に調整しても発作が続く場合には、薬剤抵抗性のてんかんを考え、専門的な評価も含めて治療方針を検討します。
【抗てんかん薬は、一度始めたらやめられないのか?】
特発性てんかんでは、長期間、多くの場合は生涯にわたる投薬を見込んで治療を始めます。薬は発作を抑えるためのものであり、発作がなくなっても、発作を起こしやすい状態が残っていることが多いためです。
ただし、すべての犬で必ず生涯投薬が必要と決まるわけではありません。構造的てんかんの原因となる病気が改善した場合や、特発性てんかんで長期間発作がなく、条件が整った場合には、慎重に減薬や休薬を検討できることもあります。原因の病気が改善しても、発作を起こしやすい状態が残る場合があるため、個別の判断が必要です。
私自身も、休薬後に発作が起こらなかった犬を経験しています。一方、自己判断で薬を中止した後に深刻な発作が起こり、亡くなってしまった犬も経験しています。
発作がないことは、薬が必要なくなったことを意味するとは限りません。急な中止は発作の悪化につながることがあるため、自己判断で減量・中止しないでください。休薬を考える場合は、獣医師と相談し、再発のリスクを踏まえて段階的に進めます。
【毎日の投薬に加えてできること】
1.発作時のレスキュー薬を準備する
長く続く発作や群発発作が心配な犬では、自宅で使用する緊急用の薬を処方することがあります。
犬では、ミダゾラムを鼻の中に投与する方法や、ジアゼパム液を直腸から投与する方法などが用いられます。ジアゼパムの直腸投与は、液剤と坐薬で吸収が異なるため、製剤や使い方を区別して考える必要があります。
レスキュー薬も、発作を抑える薬の一つです。どの薬を、どのような状態で、どのように使うのか、繰り返して使えるのか、使用後いつ受診するのかを、事前に確認してください。薬を使用しても発作が止まらない場合などには緊急受診が必要です。使い方が分からない薬を、その場の判断で使用しないようにしましょう。
2.発作の記録と、毎日の投薬を続ける
発作の日時、持続時間、回数、回復までの時間を記録し、診察時に共有してください。薬の変更後に発作が減ったのか、副作用が出ていないかを判断する助けになります。
毎日の薬は、指示された量と間隔で継続します。飲み忘れや投薬後の嘔吐があった場合の対応も、あらかじめ確認しておくと安心です。自己判断で次の薬を倍量にすることは避けてください。
3.食事による補助療法を検討する
犬では、中鎖脂肪酸(MCT)を含む食事や補助食品を、抗てんかん薬に加えることで、発作が減ったとする研究があります。これは中鎖脂肪酸が興奮性神経伝達を担うグルタミン酸受容体(AMPA)を阻害することで抗てんかん作用を発揮すると考えられています。
ただし、すべての犬に効果があるわけではなく、抗てんかん薬に代わる治療ではありません。製品の組成や与える量、カロリー、消化器への影響なども考える必要があります。市販のMCTオイルを自己判断で大量に加えるのではなく、獣医師と相談してください。
犬の抗てんかん療法食として、PURINA社からニューロケアというドライフードが販売されています。その他の各療法食に比べて高額であることや、カロリー含有量が約370kcal/100gと低カロリーフードではないため太りやすい犬の管理がやや難しいことなどがネックになるかと思いますが、当院では選択肢の一つとしてご提案しています。
4.CBDなどの補助療法について
カンナビジオール(CBD)についても、抗てんかん薬を使用している犬に追加し、発作が減ったとする研究があります。しかし、標準的な薬物治療に代わるものとして確立しているわけではありません。
研究で使用された製剤と、市販のサプリメントでは、成分や品質が同じとは限りません。肝酵素の上昇も報告されており、使用中の薬との関係を含めた確認が必要です。検討する場合は、自己判断で購入・使用せず、獣医師に相談してください。
【まとめ】
犬の発作には、低血糖や中毒などによる反応性発作、脳の病気による構造的てんかん、特発性てんかんなど、さまざまな原因があります。発作が起きたという事実だけで判断せず、発作の様子、診察、検査を合わせて原因を考えることが大切です。
発作時には周囲の安全を確保し、時間を測り、可能であれば動画を撮影してください。発作が止まらず5分に達しそうな場合や、意識が戻らないまま繰り返す場合は、直ちに動物病院へ連絡します。同じ日に発作を繰り返す場合も、速やかに相談してください。
治療では、発作をなくすことを理想としつつ、回数・持続時間・重症度を減らし、副作用とのバランスを取りながら、犬とご家族の暮らしを守ることを目指します。発作が十分に抑えられない場合には、薬の量や組み合わせ、原因の評価を見直します。
発作の記録、継続的な投薬、定期的な診察を組み合わせながら、その犬に合った治療を考えていきましょう。発作がなくなっても、自己判断で薬を減らしたり中止したりせず、かかりつけの獣医師に相談してください。
執筆:名古屋みらい動物病院 院長・獣医師 石川亮太
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