前十字靱帯断裂
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愛犬の歩き方がいつもと違ったり、片足を地面から浮かせたままにしていたりする場合、前十字靭帯断裂の可能性があります。
上記症状があれば早めに受診をおすすめします。
前十字(ぜんじゅうじ)靱帯断裂は、膝蓋骨脱臼と並んで犬に多く見られる膝関節疾患のひとつです。
前十字靱帯断裂は、人の場合はスポーツ中に起こりやすい急性の膝の外傷と言えますが、犬の場合は運動や肥満による関節への負荷、加齢や基礎疾患による靭帯組織の脆弱化、犬種、その個体の持つ膝の骨の形など、様々な要因が発症の原因になると考えられており、急性断裂はかなり稀で慢性的な部分断裂の積み重ねの結果完全断裂に至ります。
・ラブラドールレトリーバー
・ゴールデンレトリーバー
・ロットワイラー
・ニューファンドランド
・ウェルシュ・コーギー
・アメリカンコッカースパニエル
・トイプードル
・ヨークシャーテリア
・柴犬
運動制限を1ヶ月ほど行います。その他にNSAIDs(痛み止め)、ω-3脂肪酸サプリメントなどを使用します。生活環境の改善も重要です。太り気味の症例ではダイエットも行います。内科療法は、小型犬の場合に目立ったびっこが目立たなくこともあります。ただし一度切れてしまった前十字靭帯は再生することはありません。目立つ症状が消失しても膝の不安定性が改善するわけではないため、関節の変形は比較して進行してしまします。
また半月損傷が進み、びっこがひどくなることもあります。
現在、前十字靭帯断裂症に対して行われている手術の中で、一番古くから行われている外科療法です。人工の手術用糸を大腿骨外側の腓腹筋種子骨と脛骨近位に固定することで、脛骨の前方変位と脛骨の内旋を制動することを目的にしている手術です。人工の手術用糸は時間の経過とともに緩んだり、切れたり、劣化していきますが、それまでの間に膝周囲の線維化が起こることで膝が安定化していきます。TPLOに比べると術後に膝関節の不安定性が残り、特に大型犬では、その不安定性のために術後再び症状(足を引きずるなど)が出てしまったり、変形性関節症が進行してしまったりすることがあります。また小型犬の一部で手術後に埋め込んだ手術用糸の影響で強く痛みや違和感を示してしまう症例が見られます。
前十字靭帯断裂によって脛骨が前方に変位することを防ぐために脛骨近位に骨切りを行い、回転させることで脛骨高平部を水平化し、膝関節を安定化させる方法です。骨切り後は専用プレートおよびスクリューによって固定を行います。関節外制動法と比較して、早期の機能回復が期待されます。ただし適切に手術が実施されない場合には手術後の重大なトラブルが多いことが知られており、適切な実施が求められます。
小型犬から大型犬まで幅広く適応可能で、安定した成績が得られています。ただし超小型犬と脛骨高平部角(TPA)が大きい症例ではTPLO実施難易度が高いことが知られているため、術前評価が非常に重要です。
身体検査、歩行検査、綿密な触診、レントゲンや超音波などの画像診断を用いて、前十字靱帯の断裂を確認します。
手術前には、血液検査や心臓の検査などを行い、全身の健康状態を確認します。基礎になる病気により前十字靭帯断裂症が続発するような場合もあるため注意が必要です。手術の際には全身麻酔を行うため、麻酔に耐えられるかどうかの評価も行われます。
全身麻酔を行い、さらに疼痛管理を行い手術中の痛みを取り除きます。
TPLOの標準的手術法に従って、半月確認、必要なら半月切除、前十字靭帯断裂の確認・切除、脛骨骨切り、骨切り部の回転、脛骨引き出し兆候消失の確認、プレート固定という流れで進めます。皮膚を縫合して手術を終了します。
全体を通して手術は2時間程度ですが、状態や体格により手術時間は長くなります。
前十字が留めていた脛骨が前方へ引出されるようになってしまいます。
半円形に骨を切断できる特殊なブレードを使用して脛骨の骨切りを行います。
骨切りを終えたら、脛骨近位部を回転させ関節の角度(脛骨高平部角TPA)を調節します。
角度を決め特殊なプレートで固定し、脛骨が引出される力を緩和させます。
手術後、麻酔が完全に覚めるまで様子をみます。また鎮痛薬や抗生物質の投与も行い、痛みや感染のリスクを軽減します。
術後1週間は疼痛が残るので痛め止めを使用し、入院中は患肢のアイシングや着地訓練を行います。
手術後、骨切り部分の癒合までの運動制限が重要になります。動物の年齢や骨の状態などに左右されますが、二ヶ月程度が運動制限の目安になります。その後は慎重に徐々に運動量を増やします。
リハビリテーションが非常に重要です。軽い運動療法や物理療法を行いながら、徐々に歩行能力を回復させます。
退院後、定期的な獣医師によるチェックアップが必要です。獣医師が治癒の進行状況を確認し、リハビリテーションの内容を調整します。
前十字靱帯断裂は、いずれ反対の足も発症するのでしょうか?
犬の前十字靱帯断裂は人で多い急性断裂は少なく、少しずつ部分断裂を蓄積させ完全断裂に至る慢性経過をたどることがほとんどであり、逆の足も断裂を発症するケースが4割ほどあると言われています。 早期に治療せず放置したまま慢性化すると半月板の損傷など重症化の確率も高まります。
術後はリハビリなど必要ですか?
通常、手術の入院を経て退院後は、術後8週目まで2週1に回のペースで通院していただく形になります(抜糸は術後2週間)。以降はそれぞれの症例に応じて定期検診を行なっています。当院では特殊なリハビリは基本的には行なっておりませんが、必要と判断した場合はその都度、その子にあったリハビリをご紹介させていただいております。
前十字靭帯断裂を放置しているとどうなりますか?
膝関節に負担がかかり続け、骨同士のクッションをする半月板が損傷を起こしたり、関節炎を引き起こしたりして、より重度の障害につながります。また逆足への負担が大きくなるため、逆足も前十字靭帯断裂を起こしてしまうこともあります。
早期に適切な治療をしてあげることが大事になります。様子を見る前にご相談下さい。
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