ねこの手術実例

猫の右大腿骨遠位粉砕骨折整復および右大腿骨頭骨頸切除

動物

猫、1歳、4.9kg

経緯

3階のベランダから落下。屋外で右後ろ足を全くつけない状態でいるところを発見した。

症状

右後肢の完全挙上と元気消失

検査

【身体検査】
右膝の内側皮膚に内出血と穿孔創。周囲の著しい腫れ。

【レントゲン検査】
右大腿骨遠位の粉砕骨折、右股関節脱臼
※手術時に明らかになったが右大腿骨頭も一部剥離骨折

診断

・外傷性ショック

・右大腿骨遠位粉砕骨折(完全骨折、第1度開放骨折)

・右股関節背側脱臼

手術計画

以下の様々な問題点があり、非常にシビアな手術になることが予想された。

・高所からの落下によるショック状態の改善をまず3日間行う必要があること
・大腿骨の遠位骨片が非常に小さいため骨折治療の選択肢が非常に限られる上にさらに粉砕骨折のため高い強度の固定方法が必要なこと
→プレート固定一択か。
・大腿骨の骨折時に骨が体外に飛び出していたと思われる第1度開放骨折のためプレート固定をした場合に細菌感染を起こすリスクがあること
→手術時に損傷した皮膚と皮下組織の切除と細菌培養検査、さらに十分な骨折部位のパルス洗浄を行う予定に。
・股関節脱臼を併発しており骨折手術に加えて股関節の手術を併せて行う必要があること
→「大腿骨頭切除」も実施予定に。

手術

毛刈りをすると右後肢の著しい内出血。開放骨折部分の皮膚をクリーニングし細菌培養用の検体を採取した。

大腿骨頭切除を実施。骨頭部分は円靭帯付着部で剥離骨折を起こし脱臼していた。

次に骨折部位を露出し、5Lの生理食塩水を用いて徹底的にパルス洗浄をおこなった。

Intrauma社のFixin Miniロッキングプレートを用いて骨折整復。

 

経過

手術翌日から右後ろ足を使って起立が可能で、細菌培養の結果ブドウ球菌が検出されたものの抗生剤が有効で懸念されていた細菌感染兆候は全く認められなかった。
手術後28日のレントゲン検査で骨折部位の癒合の進行を認めた。

解説・コメント

猫の大腿骨骨折は落下事故などで発生が多い骨折です。落下事故での骨折は骨に強い衝撃が加わるため、今回のように骨が砕けてしまうこと(粉砕骨折)が多く発生します。その場合は手術の難易度がかなり上がるため、綿密な手術計画と手術中の柔軟な対応が必要になります。
その反面、猫の大腿骨骨折は適切な固定をすれば比較的良好なペースでの治癒が期待されます。適切な手術と手術後の安静で完治を目指すことが可能です。
今回は、一つの足に股関節脱臼と粉砕骨折が起きている稀なパターンでしたが、落下事故後の外傷性ショックを適切な入院管理で回復し、開放骨折という問題を乗り越え、1度に2箇所の手術を実施し、理想的な結果を招くことができたと言えると思います。