セカンドオピニオン 症例06

セカンドオピニオン 症例06

セカンドオピニオン 症例06

犬の胆嚢破裂(胆嚢粘液嚢腫)

犬(トイプードル)、8歳、去勢オス

症状

1週間前に食欲が低下し他院で胆嚢粘液嚢腫の悪化と言われて1週間治療しているが状況が悪化して全く食べられない状態が続き元気もない。

過去の経過

他院で1年前に胆嚢粘液嚢腫がたまたま発見され、症状はなかったので低脂肪フードのみで経過観察していた。

当院の検査

血液検査:肝酵素の軽度上昇、炎症マーカー(CRP)の上昇、黄疸は認められず
エコー検査:上腹部が高エコー(白っぽく写る)で胆嚢近傍に無エコー(黒く写る)領域

当院の診断

胆嚢破裂(胆嚢粘液嚢腫から発展か)


治療経過

直ちに入院治療し、静脈点滴などの集中治療をスタート。翌日に状況の改善がなければ胆嚢摘出手術を実施する予定とした。
入院翌日に状況の改善はなく、エコー検査で腹水の増加や胆嚢構造の不明瞭化を認めたため胆嚢摘出手術を実施した。開腹すると重度の腹膜炎が起きており、破れた胆嚢と肝臓が肝臓と強く広範囲に癒着していた。肝臓の一部は壊死し、また破れた胆嚢の巨大な内容物と多数のかけらが腹腔内に脱出していた。
(脱出していた胆嚢内容物)

通常の手順での手術では胆嚢摘出が困難であったため、深い部分の総胆管をまず処理し、次に胆嚢を肝臓の一部と共に摘出した。腹腔内に漏れ出した胆嚢内容物を入念に洗浄し閉腹した。
手術翌日から非常に元気で食欲も旺盛であった。慎重に経過を観察し手術してから3日で退院とした。

解説・コメント

胆嚢破裂は迅速な診断が生死を分けることになります。当院でも胆嚢破裂を診断することは多々ありますが、ほとんどの場合は他院で診断されずに状態が悪化し転院されてくるパターンです。今回のパターンも以前から胆嚢粘液嚢腫とは診断されていたものの胆嚢破裂とは診断されていませんでした。判断に重要なのはエコー所見と炎症マーカーの上昇で、当院では高性能なエコーと、多くの経験から迅速に診断を行なっています。
胆嚢破裂が疑われた場合、胆嚢摘出手術を行うことが必要です。ただし、手術の実施のタイミングは2つの考え方があります。

1.入院治療で状態の安定化を待ってから胆嚢摘出手術
2.なるべく早く胆嚢摘出手術

どちらを選ぶかはケースバイケースですが、今回のように巨大な胆嚢内容物が漏れ出してしまうパターンは胆嚢内容物よって強烈な腹膜炎が続くためすぐに胆嚢摘出手術を行なって正解だったと思われます。ただし胆嚢破裂後早期の摘出手術は動物の体の状態が悪く、手術野は癒着し出血も多いため高い外科技術が求められます。
無症状で「胆嚢粘液嚢腫」と診断された時点で摘出手術を行う場合は比較的手術は行いやすいですが、手術を実施するか待つかは慎重に判断することになります。

補足:胆嚢粘液嚢腫とは

胆嚢粘液嚢腫は犬で多く認められる胆道疾患です。
まず「胆嚢」は、肝臓で作られる消化液である胆汁を一時的に貯めておく肝臓に付着する袋状の構造です。胆汁の濃縮や酸性化、ムチンや免疫グロブリンの付加などの機能があります。胆汁は栄養の消化吸収に重要な役割があり、特に脂肪の吸収をスムーズにしています。肝臓で作られた胆汁の一部は直接腸に流れますが大部分は胆嚢に一時的に溜められます。胆嚢粘液嚢腫は胆嚢内でムチン分泌が増えすぎたり胆汁の水分が過剰に吸収されたりしてゼリー状になった胆汁が増加して発生すると考えられていますが、正確な発生の仕組みは明らかになっていません。

しかし犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)では明らかに胆嚢粘液嚢腫の発生が多いことは報告されており、また甲状腺機能低下症や高脂血症といった疾患も胆嚢粘液嚢腫の発生を多くさせると考えられています。
胆嚢粘液嚢腫の診断はそれほど困難ではなく、腹部エコー検査によって診断されます。また、非常によく胆嚢エコーで見られる「胆泥」に関しては、胆嚢粘液嚢腫へ発展する可能性は検討されており、胆嚢内に張り付くように存在する胆泥は胆嚢粘液嚢腫に発展するリスクがあるかもしれないと報告されています。

胆嚢粘液嚢腫の治療に関しては、「破裂に備えて予防的に胆嚢摘出手術をするべきか否か」で議論があり、こうすべきだという治療は定まっていません。ただ少なくとも胆嚢粘液嚢腫を引き起こす可能性がある基礎疾患が他にあればまずはそれを内科的に治療するということは多くの獣医師が示している意見と思います。意外なところでは、非常に多くの動物病院で使用されるウルソデオキシコール酸の内服薬が胆嚢粘液嚢腫に有効というデータは無く、意味があるかどうかは分かっていません。低脂肪食や手作り食は高脂血症に有効であることを考えると、高脂血症がある胆嚢粘液嚢腫には意味があるかもしれません。

いずれにしても胆嚢粘液嚢腫で胆嚢摘出を実施すべきかどうかは慎重に判断が必要であることは重ねて強調させていただきたいと思います。高い内科的知識と高い外科技術の両方が求められる判断となるでしょう。

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