いぬの手術実例09
dog_case09犬(柴)、10歳、去勢オス、10.8kg
左後肢のびっこ
歩行検査で左後肢の非負重性跛行。シットテストで左後肢の伸展。触診で左膝内側のMedial Buttress・ドロウアーテスト陽性、TCテスト陽性の確認。左膝X線検査でファットパッドサイン Fat Pad Sign と脛骨前方変位を確認。
左前十字靭帯完全断裂
左膝の内側アプローチ。左膝関節内を探査し前十字靭帯の完全断裂を確認。可能な限り断裂した前十字靭帯を切除。
クレセンティックソーを用いて脛骨近位を骨切りし回転矯正。Intrauma社のFixin miniシリーズのTPLOプレートを用いて固定した。
手術2日後から歩行が可能に。手術後2週間の安静。その後4週間の運動制限とした。
手術から1ヶ月半でほぼ全十字断裂以前の歩行状態に回復し、問題なく生活できている。
前十字靭帯断裂症は犬で最も多く発生する関節疾患です。人で多いのはスポーツや事故などで過度な負荷がかかって発症する急性断裂ですが、犬では加齢やその他の要因で前十字靭帯が徐々に消耗・部分断裂し最終的に完全断裂する慢性発症が一般的です。断裂した前十字靭帯が再生修復することはないとされています。
前十字靭帯が断裂すると患肢の負重が困難になり、半月を損傷しやすいためさらに跛行が重症化することがあります。中長期的には変形性関節症の進行による関節機能の低下や慢性な痛みの発症が問題になります。
また前十字靭帯を断裂した大型犬のおよそ40%で対側肢の前十字靭帯断裂を発症すると報告されています。
治療は、外科手術をするかしないかという選択です。手術をしない、いわゆる保存療法では非ステロイド系抗炎症剤や各種サプリメントを内服しますが、それらは前十字靭帯断裂の治療ではなく、あくまでも緩和的治療であることを理解しなければいけません。
手術の選択は、関節外法かTPLO法かのいずれかを選択することが一般的です。関節外法は比較的簡便に実施できることがメリットですが機能回復には制限があることが知られています。TPLO法は現在最も有効な前十字靭帯断裂症に対する治療法とされており、断裂以前の機能に回復させることが期待できます。ただし、実施の難易度が非常に高いため洗練された設備と執刀医の技術が要求されます。安易にTPLO手術を実施することで深刻なトラブルが発生することが多数報告されています。
当院では各種整形外科機器に加えX線透視装置(Cアーム)を完備しており、より質の高いTPLO手術の実施が可能です。また常に現状の技術に満足することなく、専門整形外科セミナーに参加して技術の向上と知識のアップデートに努めています。
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