ねこの手術実例04
cat_case04注釈:「シャント(短絡)」とは、ショートカットする、といった意味です。門脈体循環シャントとは、「門脈という血管」から「体循環の血管」へ「シャント(ショートカット)」している血管がある、という意味になります。
猫(雑種)、4ヶ月、オス
発作を起こしている。
著しい高アンモニア血症が続き、肝性脳症に関連した発作が考えられた。原因として門脈体循環シャントを疑い、港区のまさき動物病院にて造影CT検査を実施した。
当院で造影CT検査の結果を読影したところ2本のシャント血管を確認。ダブルシャントと判断して手術によるシャント血管の閉鎖にチャレンジすることとした。
【造影CT検査の結果】
・脾静脈ー後大静脈シャント(緑)
・門脈ー左腎静脈シャント(青)
開腹し、2本のシャント血管を確認。脾静脈からのシャント血管を糸で完全に遮断し、門脈から左腎静脈へのシャント血管をアメロイドリングを用いて遮断した。(特殊な道具が必要なため、まさき動物病院にて実施)
手術後早期から血中アンモニア濃度が正常となり、肝性脳症による運動失調や認知能力低下が徐々に改善し、日常生活を問題なく送ることができるようになった。
食べた物は胃や腸で消化吸収され、その栄養や毒素は門脈という血管に集合してその全てが必ず肝臓で処理されます。ところがその血液が肝臓を迂回して直接全身血流に流れ込んでしまう状態を門脈体循環シャントと呼びます。肝臓で処理されない血液が全身を循環するため、高アンモニウム血症などによる『肝性脳症』が問題となります。肝性脳症は、意識障害、発作、運動失調などを特徴として、その程度が酷い場合は門脈体循環シャントを手術で治療しても死亡してしまうリスクが高くなります。
犬でも猫でも認められる病気ですが比較的稀な病気で、今回のような2本のシャント血管が存在し手術が実施可能であった例は極めて稀でしょう。
若齢時に診断して手術を実施すれば寿命を全うできる可能性が高い病気ですが、高齢になってから偶然発見されたようなパターンでは手術を実施するべきかどうか慎重に判断する必要があります。
今回治療した子猫さんは屋外で衰弱していたところを飼い主さんが保護し、極めて重大な問題が発生し、難病が判明したにもかかわらず、治療を決意していただきました。手術をしても改善するか微妙な状況の中で手術を乗り越え、軽度の発作が残るものの肝性脳症から解放され、猫らしく成長してくれています。
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