犬と猫の「心臓科」
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動物たちの高齢化に伴い、心臓病に罹患する子が増えています。
心臓病は気付かないうちに病状が進行していることが非常に多いため、早期に見つけ、動物たちが長生きできるようにしてあげましょう。
根拠に基づいた心臓病治療が世界的に示される中、一次診療施設ごと、獣医師ごとに統一されていない検査や治療が実施されていることが多いです。
心電図による不整脈のチェック、レントゲンによる肺と心臓の大きさや病変の確認、血圧測定など、検査の項目は様々ですが、
なかでもエコー検査は一番データとしての有用性が高く、心臓の壁の厚さや動きに加えて、血液の流れも見ることができます。
国際的な任的機関のガイドラインに基づいたステージ分類をして、治療方針を決定し、その後、心エコーで定期的にモニタリングしていきます。
他院では心雑音が聞こえるとすぐに薬を処方されるケースもあるようですが、「飲まなくてよい薬を飲んでいる」「薬の量が合っていない」ということもあり得るので、当院では検査を念入りに行います。
数値データを飼い主様にお渡しして説明をしています。レントゲンやエコーといった画像診断も飼い主様と一緒に見ることができますので、エコーを見ながら「ここの弁が閉じきっていない」や「心臓の壁が何ミリあり通常より厚い」といった専門的な内容を分かりやすく説明します。
犬と猫の心臓病治療のガイドラインとコンセンサスに乗っ取り、専門的なエコー検査と内科治療を実践いたします。
検査結果をもとに薬の種類や量を決定しています。データに基づいて「この数値になっているからこの薬を飲みましょう」とお伝えすることで、飼い主様に納得して治療に参加していただけるので、経過も良いです。
「食欲」や「咳の回数」の変化は飼い主様も分かりますが、心臓の機能自体の評価は検査をして数値化しないと判断が難しいことが多いのです。
わんちゃん猫ちゃんは自分の症状を言葉で話せないので、数値で評価するしかありません。
小型犬の8歳齢以上の子では半数以上の子が心臓病になると言われています。
犬の心臓病には、先天性の心奇形、フィラリア症、心筋症などいくつか種類がありますが、最も多いのが弁膜症、特に「僧帽弁(そうぼうべん)閉鎖不全症」です。
病気の種類、症状や治療方法を理解して、大切なわんちゃんをサポートしましょう。
心臓の左側は全身に血液を送り出す重要な仕事を担っています。その心臓の左側にある左心房と左心室の間にある逆流を防ぐための弁を僧帽弁といいます。その僧帽弁が変性を起こしてうまく閉じなくなってしまい、左心室から左心房へ血液が逆流する状態を「僧帽弁閉鎖不全症」といいます。
その逆流した血液の流れが「心雑音」として診察で聴取されます。この心雑音をきっかけにこの病気に気づくことがほとんどでしょう。
病気の初期の段階から的確に病状の進行具合を把握することが非常に重要です。近年、僧帽弁閉鎖不全症の治療はアメリカ獣医内科学会(ACVIM)が発表しているガイドラインに沿って進めることが主流となっており、当院でもガイドラインに従って検査・診断・治療を進めています。
聴診など身体検査、胸部レントゲン、心臓エコー検査を中心に進め、必要に応じて血液検査や血圧測定や心電図検査を行います。
ACVIMのガイドラインに沿い、ステージ分類をします。(ステージ A→B1→B2→C→D)
心臓の変形(拡大)が顕著に見られるようになる、ステージB2から飲み薬を始めることが推奨されます。
2019年のガイドライン改定によりステージB2からピモベンダンのスタートが推奨となりました。(それまではACE阻害剤をひとまず使用していました)その後は、ACE阻害剤、利尿剤(フロセミド、トラセミド)、抗アルドステロン剤(スピロノラクトン)、降圧剤(アムロジピン)などを必要に応じて追加します。
ステージB1で薬を始めることに関してはメリットが分かっておらず、場合によってはデメリットがあるのではないかと考えられています。
※手術について近年、僧帽弁閉鎖不全症は手術によって完治も目指すことができるようになりました。僧帽弁の再建手術を実施できる動物病院は非常に限られます。当院から手術が実施が可能な動物病院をご紹介することができますのでご相談ください。
猫は心筋症が多く、聴診器では異常が見つからないことが多いため、早期に診断をつけるためにはレントゲンや心臓病超音波検査などでの精密な検査を行うことが大切になります。
猫の代表的な心臓病は「心筋症」です。心筋症はいくつかに分類されますが、代表的なものに、肥大型心筋症、閉塞性肥大型心筋症、拘束型心筋症があります。
心筋(心臓の筋肉)が次第に分厚くなっていき、心臓の機能を低下させてしまう病気で、血液を全身に巡らせることが困難になってしまいます。
症状が悪化すると心臓の中で血栓を作ってしまい、血管の中で詰まることもあります(動脈血栓塞栓症)。血栓塞栓症は発症するとほぼ助からない重病です。
心筋症は一部の純血種に遺伝的な要素が関わっていることは分かっているものの、未だに原因は不明であり、心筋症になることを予防することはできず、ある日突然症状が現れるという特徴があります。ただし、症状が現れる前に心筋症であることを診断することで内服薬を使用して病態の進行を遅らせたり血栓塞栓症の発症を予防したりすることが期待できます。
腎臓は心臓によって流される血液中の老廃物を尿に変える働きをしています。しかし心不全の体では血液を思うように流せなくなるため、腎臓は尿が作れません。そしてその状態が続くことで体に毒素がたまり「急性腎不全」を引き起こし、最悪の場合死に至ることがあるのです。
もちろん、心不全の治療などの適切な措置を行えば腎不全は回避できます。
心臓病が他の臓器にも影響を及ぼす前に、できるだけ早く治療に取り掛かるようにしましょう。
前述したように、残念ながら肥大型心筋症の原因は解明されておらず、下記の対症療法的な治療を行い、症状が緩和することを期待することしかできません。
確実な効果を得られる治療がありませんが、ねこちゃんを精神面をから支えてあげることは可能です。辛い心臓病と戦っているねこちゃんの気持ちを、飼い主さまをはじめとするご家族の方々でサポートしてあげるようにしましょう。
クロピドグレルというお薬が代表的です。心筋症や心不全を治す効果はありませんが、致死的な血栓症を予防する効果が期待されます。ただし非常に苦い薬のため、飲み薬が苦手な猫では投薬が難しいでしょう。
強心剤、降圧剤、利尿剤、ACE阻害剤などのお薬の投与が候補になります。やはり劇的な効果は期待できませんが、症状の緩和が可能な場合もあるため、心エコー検査や血圧測定などをしっかりと実施して判断します。
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