猫糖尿病の経口薬(飲み薬)治療について

ブログ

BLOG

猫糖尿病の経口薬(飲み薬)治療について

2024年9月に猫の糖尿病の経口薬が日本で発売されました。

これまで猫の糖尿病治療は、「毎日家でインスリンを注射するしかない」というのが常識でした。

「猫の糖尿病が飲み薬で治療できる」というのはこれまでの猫糖尿病治療の常識を大きく変えることは間違いありません。
が、「飲み薬で治療できる」という響きだけだとなんだか治療が簡単になったような印象を抱いてしまいますが、私としてはむしろ逆ではないかと思います。
理由は、これまでの注射によるインスリン治療はどんな状態の糖尿病であろうとも(語弊を恐れずに表現すると)、「低血糖を起こさないことだけ考えてインスリン注射をしていくだけ」といった治療でした。(もちろん低血糖は死につながりますし、通常1日2回の注射を365日という飼い主さんの負担がとんでもないわけですが)

それに対して、新しい経口薬による糖尿病治療は糖尿病の病態を獣医師がしっかりと理解していることが重要と思います。猫の糖尿病ではこの飲み薬は使える子と使えない子がいてどちらに該当するかは飲み薬をスタートしてみないと分からないのです。もし飲み薬が使えないパターンに該当する場合は緊急的な集中治療が必要になる『ケトアシドーシス』を引き起こすため慎重な判断が必要になります。
犬の糖尿病ではこの飲み薬は基本的に使えません。なぜなら犬の糖尿病では体内でインスリン造る能力をほぼ失っておりその能力が回復することはないからです。猫ではインスリンを体内で造る能力は回復することが多いため飲み薬が使えるというわけですが、インスリンを体内で造る能力が残っていなければこの飲み薬が使えないということです。

当院ではすでに猫の糖尿病の経口薬「センベルゴ®️」の処方がスタートしています。
センベルゴに関連したスタッフ向け院内セミナーも2回開催しており、1回目は発売の2ヶ月前に7月にアメリカ獣医内科専門医の佐藤雅彦先生から当院獣医師へSGLT2阻害薬について、2回目は発売とほぼ同時期に発売元であるベーリンガーインゲルハイムから当院看護師に向けてセンベルゴについて行われました。治療理論に関してはほぼ完璧な状態です。

また当院では糖尿病管理に非常に重要となる検査を院内で行うことができます。
・フルクトサミン・・・2〜3週前の血糖値傾向を知ることができる
・βヒドロキシ酪酸・・・ケトン体のうちケトアシドーシスの傾向より反映する

おそらく国内でも猫の糖尿病治療薬のセンベルゴについてここまで学習し準備して処方をスタートする病院も数少ないのではないかと思います。
病気で苦しむ猫を治療するのは当たり前ですが、その治療の根幹を担う飼い主の負担と不安を少しでも軽減できるように努力してまいります。ご不明の点はご来院の上ご相談ください。

【2024.10.1追記】
インスリン注射からの切り替えをご希望の飼い主の方へ
当院ではすでにインスリン注射からセンベルゴへの切り替えを2匹の猫さんで実施しました。そのうち1匹の猫さんはすぐにケトアシドーシスになってしまいインスリン注射に戻しました。もう1匹の猫さんは今のところ順調にセンベルゴを継続中です。
個人的な感想や考察では、予想通りですが、「SGLT2阻害薬のみでの猫糖尿病コントロールはそんなに簡単なものじゃない」です。インスリン基礎分泌能力の有無によって大きく左右されるのは想像に難くないもののそれを事前に知る方法の検討が必要でしょうし、理論的にはインスリン注射と組み合わせることが可能であればそれに越したことはなさそうですが、それをする根拠やマーカーとなる検査指標が定まっていないです。
当院では体内インスリン値がセンベルゴ治療スタートが可能かのマーカーにならないかの研究治験に参加予定です。猫さんには余分な負担をかけない「検査項目の有用性の検討」ですので、猫糖尿病治療のより良い治療法確立に賛同していただける飼い主様はぜひご協力ください。

【補足】
センベルゴの作用機序
SGLT2阻害薬(Sodium Glucose Co-transporter 2 inhibitor)であるベラグリフロジンというお薬。(アメリカではベクサグリフロジン(ベクサキャット®️)も動物用薬として認可があります。)
腎臓では糖が全て体内に再吸収されるが、この再吸収に関わるのがSGLT(糖再吸収の約90%を担っているのがSGLT2、約10%担っているのがSGLT1)。糖の再吸収を阻害し尿中に体内の糖を排泄させることで糖尿病の猫の糖毒性状態を解除し、血糖値を正常に近付けインスリン耐性の消失とインスリン分泌の復活を導いて、糖尿病を寛解に導きます。・・・難しいと思うのでものすごく平たく書き直します。
「薬飲むと血糖が尿中に捨てられて血糖値がいい具合に下がって体調良くなって体内インスリン分泌が復活して糖尿病からなんと離脱!」
SGLT1は阻害されないので低血糖になることはほぼないとされています。

経口薬センベルゴを使用するメリット(インスリン注射に比較して)
・1日1回で済む(注射はほとんどで1日2回必要)
・注射しなくてよい
・投薬ミスのリスクが少ない(インスリンは投与量を間違えると低血糖のリスク)
・食事の制約が少ない(注射の場合に比べてです)
・血糖値検査(モニタリング)の必要が少ない(注射の場合は当初は頻回でその後は継続的に必要)

同じくデメリット(インスリン注射に比較して)
・結構な割合で使用不可能の糖尿病猫がいるのに事前にそれが分からない(使ってみてダメなら断念する)
・尿糖は常に出続ける(そもそもセンベルゴは血糖を尿中に捨てさせるお薬)
・血糖値が正常でもケトアシドーシスを起こしているか判断はできない(血中βヒドロキシ酪酸か尿中ケトンの測定が必要)
・意外と費用がかかる(メーカーの価格設定の問題です)
・飲ませないといけない(頑なに飲まない猫さんも・・・)
・下痢などの副作用への警戒(インスリンの注射では低血糖以外の問題は起きない)
・治療理論に理解が必要(当院なら安心して任せてください)

【蛇足】
さて、最近の院長のご報告です。
人生で初めてと言っていいほど体調の悪い日々が続き、寄る年波を感じているこの頃です。自らに課していた週に2回の15km走でしたが、体調不良と連日の酷暑から断念し、インドアな日を過ごしがちです。
9月に入って体調はだいぶ落ち着きほぼ普通に戻りましたが、関節の痛みが取れません。次は筋トレとストレッチに取り組んでみてもいいかもしれません。
2024年9月3日に開院12周年を迎えました。最近の動物病院業界の動きとして大手資本が動物病院の買収を進め、気がついたら近隣の病院も企業のグループ病院になっていることが多くなってきました。飼い主の皆様のためになるグループ病院化というよりは動物病院経営に悩みを抱える院長獣医師のためのグループ化(経営の苦労からの解放)といった感じなので、今後のグループ病院化がどこまで進むかは開業獣医師と消費者(飼い主)のニーズがどこにあるのかによって変わってくるでしょう。
名古屋みらい動物病院は企業買収されますか?と聞かれたら、答えはNoです。飼い主の皆さんのためになるならそれも選択肢でしょうが、現状の動きは各院長先生のための企業化ですからね。あとはこんなカツカツの動物病院は企業も欲しがらないでしょう(笑)

ページトップへ戻る
ー 採用情報
RECRUIT ー 採用情報

名古屋みらい動物病院は、目標に向かって一緒に働ける仲間を募集しています。お気軽にご連絡ください。

詳しくはこちら
併設トリミングサロンMiRAI

どうぶつあれこれ研究所

BLOG

more

猫糖尿病の経口薬(飲み薬)治療について

…more

FIP(猫伝染性腹膜炎)の治療法 -モルヌピラビルという選択肢-

…more