いぬの手術実例

肝細胞癌

犬(ボーダーコリー)、12歳、避妊メス

症状

無症状。健康診断の血液検査で肝臓の数値の上昇を認め、超音波検査で肝臓の左葉に巨大な腫瘤を認めた。

術前評価

他院に造影CT検査を依頼。肝臓の内側左葉に60mm大の球状の腫瘤を認めた。高分化型肝細胞癌を第一に疑い、当院にて左肝区域切除を実施することとした。

手術

上腹部および胸骨正中切開を行い、開腹・開胸した。肝臓の腫瘍を確認し、腫瘍を含めた左側の肝臓の全て(肝臓全体のおよそ半分)を切除した。

確定診断

病理組織検査の結果「肝細胞癌」。取りきれているという診断であった。

治療経過

手術翌日から食事をよく食べ、手術後3日で退院。手術後2週間で抜糸した。手術から2年半以上が経過したが、再発もなく、元気に生活している。

解説・コメント

肝臓は腹部最大の臓器で、エネルギーを作ったり、蓄えたり、解毒作用を有したり、、、などなどたいへん多くの様々な役割を持った重要な臓器です。肝臓の病気は症状としてなかなか出て来ず、そのため「沈黙の臓器」とも呼ばれます。
本症例では健康診断をきっかけに肝臓腫瘍の存在に気付くことができました。
悪性腫瘍である肝細胞癌だとしても、適切な切除を行うことで完治させることが十分に期待できます。切除をしなければ近い将来に腫瘍が破裂し、死亡することが予測されます。このわんちゃんの場合は病理組織検査の結果で取りきれているとの結果でしたので、寿命をまっとうできることが期待できます。ただし、肝臓の切除手術は難易度としても非常に高く、気軽に手を出せるものではありません。事前にCT検査を行い、慎重にその発生した場所と大血管との位置関係を把握し、万全の体制をもって手術に望む必要があります。当院では肝臓の左側に発生した腫瘍であれば切除を実施することができます。ただし、肝臓の中央もしくは右側に発生した腫瘍の場合は実施が可能か否か慎重に判断する必要があります。